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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)488号 判決

日本相互銀行

事実

原告(反訴被告、以下単に原告と称する)株式会社日本相互銀行は請求の原因として、被告(反訴原告、以下単に被告と称する)協和塗装株式会社は昭和三十一年一月十九日、訴外日東土建興業株式会社に対する東京簡裁の判決の執行力ある正本に基く強制執行として、右訴外会社代表者代表取締役武井定光方に臨み本件(一)の物件を差押え、被告山加木材有限会社は同日同判決の執行力ある正本に基く差押照査手続として右場所で本件(二)の物件を差押えた。しかしながら右物件はいずれも昭和三十年二月十五日、原告が右訴外会社より譲渡を受けてその所有権を取得したもので、その後右訴外会社に使用させていたものであるから、被告等から右訴外会社に対する債権のために差押えられる理由はないと述べ、被告等の抗弁及び反訴請求原因に対して、被告等が各約束手形金債権を有すること、譲渡担保設定契約をしたことは認めるが、右訴外会社の総債務については不知、同会社が被告等を害することを知りながら該契約を結んだこと並びに右譲渡行為が訴外会社と相通じてなした虚偽の意思表示に基くものであることは否認すると述べた。

被告等は、原告の請求原因事実中被告等が前記日時、場所において右訴外会社に対する判決正本に基き本件物件につき差押をしたことは認めるが、原告がその所有権を取得したことは否認する。原告は昭和三十年二月十五日に成立した譲渡担保設定契約によつて本件物件の所有権を取得したと主張するが、同契約においては目的物を特定しその同一性を認識するに足る意思表示がなされていないから右契約により原告は本件物件の所有権を取得できるはずがないと答え、本訴の抗弁及び反訴の請求原因として、被告山加木材有限会社は訴外日東土建興業株式会社に対して金額五万円、満期昭和三十年五月十日、振出日昭和二十九年十二月三十一日なる約束手形債権を、被告協和塗装株式会社は同じく右訴外会社に対して金額四万六千八百円、満期昭和三十年四月三十日、振出日昭和三十年二月二日なる約束手形債権を有するところ、右訴外会社は昭和三十年二月十五日、原告に対し前記譲渡担保契約を結び本件物件を原告に無償で譲渡したが、当時右訴外会社の一般債務(原告等金融機関を除くもの)は工事資材代金、運賃など約百二十件、金額合計千三百六十六万円以上に達するにかかわらず、本件物件以外にその支払の引当となるような資産はなかつたので、本件物件を原告に無償で譲渡したため被告等を含む一般債権者が同訴外会社の財産から弁済を受ける余地が全くなくなつた。訴外会社は以上の事実を知りながら本件物件を原告に譲渡したものであるから被告等は前記各債権を保全するため反訴をもつて右譲渡の取消を求めると述べた。

理由

被告等が訴外日東土建興業株式会社に対する強制執行として原告株式会社日本相互銀行主張の債務名義の執行力ある正本に基き本件物件に対し差押をなしたこと、及び昭和三十年二月十五日原告と訴外会社との間に原告主張のような所有権移転の意思表示がなされたことは当事者間に争がない。

被告等は右契約は目的物を特定しないでなされたものであると主張するが、証拠によれば本件物件の名称、数量、構造能力、製作所名、製作年月日がそれぞれ特定されていて同一名称であつても右各項のいずれかが異つていること、また右契約にあたつては訴外会社の提出した帳簿に基いて項目ごとに本件物件の所在場所を確かめ且つ帳簿面価額によつて価値の小さいものは除外し担保価値のある物件を選んで目的物の目録を作成したことが認められるから、右所有権移転契約の目的物として本件物件は特定していたことが認められ、被告等の右主張は理由がない。

よつて被告等の詐害行為取消の主張について検討するのに、被告協和塗装株式会社は訴外会社に対し金四万六千八百円、被告山加木材有限会社は同会社に対し金五万円の各約束手形金債権を有すること、訴外会社が昭和三十年二月十五日、同会社所有の本件物件を原告に譲渡担保として所有権を移転したことは当事者間に争がなく、証拠を綜合すれば、右譲渡行為のなされた当時の右訴外会社の経理状態は、同会社の原告に対する金千二百万円の債務のほかに多数の債権者に対し千数百万円の債務を負担し、積極財産としては僅かに本件物件があるだけで、右訴外会社の代表取締役武井定光所有の家屋も原告から負担する債務の担保として原告に差入れられていて、当時請負つていた三国国道の工事から生ずる債権も差押えられたり、原告に代理受領されていて、金銭に換価することができる財産もない有様であつたのに、前記のように原告に対し本件物件を無償で譲渡するに至つたことを認めることができる。そうすると右訴外会社は被告等一般債権者の前記債権を害することを知りながら右物件を原告に譲渡したことは極めて明らかである。この点に関し、前記武井定光の証言中に、右訴外会社には前記の如く多額の負債はあつても電源開発の仕事を請負えば右工事代金をもつて右負債も完済できると考えていた旨の証言があるが、右工事の受注もできず、昭和三十年六月に至つて右訴外会社の営業は休業状態となり、原告に対しなお七、八百万円の債務があり、他の債務者に対する多額の債務もなお未済のまま残つていることも同人の証言によつて認めることができ、しかもその間訴外会社の予測しなかつた事情が生じたためでないことも証拠に照らして明白であるから、本件物件についての右無償譲渡行為が被告等一般債権者を害することを訴外会社において知つていたことの認定の妨げとはならない。従つて被告等の前記債権を保全するためには本件物件につきなされた右譲渡行為を取り消す必要があること明らかといわなければならない。従つて詐害行為取消権に基き、原告と右訴外会社間になされた本件物件についての右譲渡担保契約の取消を求める被告等の反訴請求は正当であるとしてこれを認容し、原告の本訴請求を棄却した。

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